KCIDigital Archives

京都服飾文化研究財団(KCI)の収蔵品から選りすぐった作品を、画像と解説付きでご覧いただけます。

ボディス

© The Kyoto Costume Institute, photo by Takashi Hatakeyama

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ボディス

1600年頃 - イギリス

素材・形状特徴
粗いキャンパス地に銀糸の全面刺繍、その上に金・銀糸、多色の絹糸などによる立体的な動植物モチーフのアップリケ。背面には刺繍はなく、後ろ中心にレーシングンの明き。
クレジット・ライン
株式会社ワコール寄贈
収蔵品番号
AC6328 89-16

銀糸で覆われた土台には、ばら、さやいんげんと豆、勿忘草、チューリップ、アイリス、カーネーション、釣り鐘草などの植物、鳥、毛虫、蝶、カタツムリ、蜘蛛、蛇などの動物が認められる。えんどう豆は膨らみ、カーネーションの花びらはカールし、虫はあたかも蠢くようである。編み物、レースなどさまざまな技法が用いられて構成された極めて3次元的なこれらのモチーフが、金糸のチェーンステッチによるつる草状のカルトゥーシュの中に配置されている。16世紀ヨーロッパに流行した自然礼賛を受けて、工芸などに広く好まれたモチーフと配置である。 エリザベス1世時代[在位1558-1603]、重要な工芸だったイギリスの刺繍、ニードルワークの頂点を示す本品は、「Devereux Bodice」と呼ばれ、エリザベス1世にまつわる品である。1601年、女王に反逆罪で処刑された彼女晩年の恋人エセックス伯爵(Robert Devereux)[1566-1601]の母が、息子の命乞いに女王に献上したと伝えられる。無類の衣装好きとして知られたルネサンスの絶対君主にとって、衣服の役割は顕示と威圧であったことが、金銀で飾られたこの豪華で、威厳に満ちたボディスの極限的な贅沢振りからうかがい知ることができよう。なお、献上された時はスカートも揃っていたと伝えられるが、現存するのはボディスのみである。