KCIDigital Archives

京都服飾文化研究財団(KCI)の収蔵品から選りすぐった作品を、画像と解説付きでご覧いただけます。

コート

© The Kyoto Costume Institute, photo by Masayuki Hayashi

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コート

1925年頃

デザイナー
マドレーヌ・ヴィオネ[推定]
ブランド
ヴィオネ[推定]
素材・形状特徴
黒の絹ベルベット。シャーリングによる装飾。衿は白いイタチ科の毛皮付き。ライニングは植物柄のラメ・ジャカード。中綿入り。
収蔵品番号
AC12503 2011-4-5

身頃全体にシャーリング加工を施したベルベットが光に反射し、黒一色のコートに深い表情を与える静謐な作品。衿にはミンクの毛皮が贅沢にあしらわれ、華やかさを演出している。打合せの裾からのぞくのは、金と銀のラメ・ジャカードの豪華なライニング。きものの八掛(はっかけ)のように裏面の華やかさを演出している。直線的構成になった1920年代の服には、きものの絵羽(えば)のような絵画的な柄構成が有効だった。図柄を下部に集中させたこのようなテキスタイル・デザインは当時のドレスやコート用のものに度々見られ、きものの図柄配置の影響がうかがえよう。このライニングのテキスタイルは、リヨンの有力テキスタイル・メーカー、デュシャルヌ社製。リヨンのメーカーはしばしば才能豊かなアーティストにテキスタイル・デザインを依頼したが、本品は漆工芸家として知られるジャン・デュナンが手がけたテキスタイル・デザインの希少な例である。アール・デコ期にみられる平面的で抽象的された花模様は蓮を想起させる。デュナンは蓮の意匠を好み、しばしば屏風やベッドの装飾に用いていた。パリ市立衣装美術館が所蔵する1925年制作のウォルト店のワンピース・ドレスは、このライニングと同柄、色違いのテキスタイルで仕立てられている。本品は裏を返して着用することが可能な仕立てとなっている。縫い代を巧妙に隠すなどの処理が随所に見られ、パリ・オートクチュールのメゾンの縫製技術の高さが示されている。

1920s