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京都服飾文化研究財団(KCI)の収蔵品から選りすぐった作品を、画像と解説付きでご覧いただけます。

ミュール

© The Kyoto Costume Institute, photo by Masayuki Hayashi

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ミュール

18世紀後期 製作国不詳

素材・形状特徴
甲部分、刺繍糸は綿/麻製。カーネーションやスミレ、草花はチェーン・ステッチによる刺繍。ソール、インナーソールは革製。
寸法
約20.5cm(長さ)/7.0cm(幅)/7.5cm(ヒールの高さ)
収蔵品番号
AC1093 78-32-4AB

18世紀の貴族階級の女性たちが公的な場で履いた靴は主に豪奢な絹織物製で、模造宝石のついたバックルで留めるデザインのものが多い。しかし本品は綿/麻製で留め具はなく、踵部分が露出したミュールと呼ばれる軽やかなスタイルの履物である。もともと寝室用であったミュールは18世紀になると貴族階級の男女が室内外を問わず愛用した。その様子はフラゴナールの《ぶらんこ》(1767年頃、The Wallace Collection所蔵)をはじめとする多くの絵画や版画に描かれている。18世紀後期には様々なシーンでの着用が広がり、「(フランスの女性は、)足をすっぽりと覆わない簡易な形状にも関わらず、ミュールを履いて器用に踊った」と『ロンドン・マガジン(The London magazine, or, Gentleman's monthly intelligencer)』(1772年)は伝えている。
本品は中央に赤いカーネーションが一輪、その両側と爪先部分には黄と紺のスミレ、履き口に草花が刺繍されている。地中海沿岸や西アジア原産といわれるカーネーションは、近世以降、西欧で人気となった。この花のモチーフは18世紀の時計、チェストなどの調度品をはじめ、ストマッカー、ブローチなどの服飾品にも多用された。

1760s-1770s