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京都服飾文化研究財団(KCI)の収蔵品から選りすぐった作品を、画像と解説付きでご覧いただけます。

団扇

© The Kyoto Costume Institute, photo by Toru Kogure

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団扇

18世紀後期 - フランス

素材・形状特徴
紙に銅板印刷、手彩色。表面には花、リボン、農具のカルトゥーシュで囲まれた男女の人物画とテキスト。裏面には劇の台本から抜粋したテキスト。こげ茶に塗装された木製の柄。
寸法
約27cm(扇面の縦)/約25cm(扇面の幅)/約25cm(柄)
収蔵品番号
AC4347 82-21-10

本品の表面には18世紀の貴族の衣装に身を包んだ5人の人物が談笑を交える様子が描かれている。裏面のテキストは劇の台本からの抜粋で、扇面全体を使って2段組みに配され、劇中の役名とセリフ、ト書きにいたるまで活字されている。
18世紀の西洋では、団扇は主に暖炉の熱から貴婦人の顔を保護するために使われた。その使用は17世紀頃から広まり、ブーシェなどが描く風俗画においても暖炉の場面にしばしば登場する。団扇は厚手の紙に木製の柄を取り付けた簡素な構造をしており、耐久性に乏しい。摩耗すると火に投げ込まれるなどされたため、現存するものは少ない。折りたたむことができる扇子が繊細さと装飾性を獲得し、宮廷でコミュニケーションツールとして用いられたのとは対照的である。
18世紀フランスの団扇の作例を見ると、本品と同様に絵画や文章などが印刷されているものが多く、その主題は建造物や地図、寓話、楽譜など多岐にわたる。なかでも特徴的なのは、当時流行した喜劇や喜歌劇の一場面とその台本からの抜粋をそれぞれ表裏に印刷した作品で、同一の劇作の異なる場面を描いた連作として製造されている。
本品も人物とテキストが表裏に描かれている。裏面にある人物名とそのセリフから、シャルル=シモン・ファヴァールの喜歌劇「イザベルとジェルトリュード(Isabelle et Gertrude)」(1765年初演)の第13場であることがわかる。表面の人物の下には、登場人物のセリフが引用されており、当該の場面を描いたものと判別できる。また裏面のテキスト最下部に「Chez Petit」と製造業者の名前が入っている。同じ業者のものがフランス国立図書館に収蔵されており、それらは6枚連作としてそれぞれに番号が付されている。本品にも、裏面下部に「No」の記載が見えることから、前後に連作の団扇が存在していたと推測される。

1760s-1770s