© The Kyoto Costume Institute, photo by Takashi Hatakeyama

Collection 02

宮廷衣装Court Dress

© The Kyoto Costume Institute, photo by Takashi Hatakeyama

ドレス(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)1770年代後半(素材:1750-60年代) - フランス

ロココの衣服にはフラウンス、フライ・フリンジ、造花、リボン、シュニールなどの夥しい装飾が欠かせなかった。本品は、過剰とも思える夥しい装飾が全体として調和を見せ、洗練と装飾性に溢れたロココを形容するにふさわしいドレス。
テキスタイルは、その質の高さとデザインで名声を誇ったフランスのリヨン製絹織物。ピンクと白の経縞を地模様として、リズミカルな花づな模様のカルトゥーシュの中に花束が多彩に織りだされている。それをレースと共に飾られた繊細な縁飾り(パスマントリー)が飾っている。テキスタイルに織り出されている花束や花づなと同じモチーフが、色だけでなく質感も立体的に作り出されている。これほど見事なパスマントリーの例は少ない。
フランスでは1653年にパスマントリー組合が結成されて以来、専門の職人たちによってさまざまな装飾が生み出され、18世紀に渡って隆盛を誇った。

    素材・形状特徴アイボリーにピンクの縞柄のリヨン製絹ブロケード。シュニール糸の縫取織による花束と花づな柄。共布のサボ型袖。絹ネット・レースとシュニール糸による立体的な花飾りによる縁飾り。共布のストマッカーとペティコート。

    収蔵品番号AC9704 98-26AD

ドレス(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)
© The Kyoto Costume Institute, photo by Taishi Hirokawa

ドレス(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)18世紀前半 - イタリア

金色に輝く贅を尽くした宮廷用衣装。特に18世紀の女性用宮廷服で最も人目を引くポイントである胸部を被うストマッカーは、輝きを放つ金糸のアップリケやレースで覆い尽くされている。そして、ガウンやペティコートにも金糸レース(メタル・レース)の装飾がふんだんに用いられている。 本品のテキスタイルは豪奢な絹織物の生産地として隆盛していたヴェネチア製。文様を織り出すための緯糸には、金糸2本と黄色の絹糸1本が使用されている。黄色の絹糸が地織となり、金糸は地織の経糸とは別糸に絡ませているため、文様の裏面は金糸が隠れて見えない。複雑で高度な技術を要するとりわけ贅沢なものと言えよう。ザクロ、カーネーションなどの植物柄に見られるオスマン様式の要素は、ヴェネチアが東西交流の拠点であり、貿易がもたらす富の象徴であることをこの作品は物語っている。

素材・形状特徴赤地に金糸と黄色の絹糸で植物柄を織りだした絹ブロケード。ガウン、ペティコート、袖口に金糸レースと赤い絹フロスの花飾り。ストマッカーと衿飾りは金糸のアップリケとレース飾り。

収蔵品番号AC11203 2004-35AD

ドレス(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)
© The Kyoto Costume Institute, photo by Taishi Hirokawa

ドレス(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)1775年頃 - フランス

見事な手仕事の極みを示すドレスである。上品な単色に抑えられているが、針と糸による様々な装飾で静謐な優雅さを漂わせ、絹サテンの艶めく光沢が泡立ったような凹凸装飾によって、よりいっそう増強されている。布を寄せて立体を作るブイヨネ、中綿を入れて膨らませたブチ、チューブのような形状に布地を寄せるチュイヨテなどの、フランスの典型的な糸と針による一種のキルティング装飾技法による装飾が繰り返されている。これらのいわば素朴な手法は、本品では見事な洗練の技法へと高められている。さらにフライ・フリンジ、シュニール糸などによる繊細な装飾も、ロココのフランス宮廷文化の粋を見るような優雅な美の表現である。

素材・形状特徴ベージュの絹サテンに細いストライプと水玉模様のブロケード。前身頃はコンペール形式。共布のペティコート(ジュップ)。立体的な装飾ブイヨネの飾り。フライ・フリンジ、シュニールなどによる繊細な装飾。

収蔵品番号AC7716 93-5AB

宮廷服
© The Kyoto Costume Institute, photo by Takashi Hatakeyama

宮廷服1820年頃 - スペイン

厳かな、粛然とした気高さを漂わせる宮廷衣装。スペイン宮廷の公式な場で着用されたと伝えられる。長いトレーンは、赤い絹に金糸刺繍が目映い。刺繍には金糸の他にプレート状のいわゆる平金も併用され、金の輝きに変化を与えている。
1804年のナポレオンの戴冠式以来、西欧における女性宮廷服の様式が定まったとされる。身分に相応しい勲章や宝石と共に、肩、後にウエストに着装するトレーンは、位が高くなるほど長くなった。

素材・形状特徴ドレスは白い絹サテンの上に金糸刺繍の絹チュール。パフ・スリーブ。ウエストに着装するトレーンは赤い絹タフタに金糸刺繍と縁取りは金糸によるスカラップ仕上げ。

寸法トレーンの幅193cm、長さ280cm

収蔵品番号AC6300 89-8AC

男性用スーツ(アビ・ア・ラ・フランセーズ)
© The Kyoto Costume Institute, photo by Taishi Hirokawa

男性用スーツ(アビ・ア・ラ・フランセーズ)1790年頃 - フランス

重厚感あるアンカット・ベルベットの基布に紫と緑の細い縞柄が軽やかさを添える。コートと白いウエストコートには、揃いの草花柄の刺繍が施されている。
18世紀、刺繍はむしろ紳士服にその美しさを発揮したといっても過言ではない。その名残りは、現在でもアカデミー・フランセーズ会員の正装に見ることができる。特に盛装用のアビ・ア・ラ・フランセーズのコートとウエストコートには、金・銀糸、シークイン、多彩な色糸、模造宝石などでたっぷりと刺繍がされていた。
当時のパリには、刺繍師たちの工房が数多くみられ、その仕事場の様子はディドロの『百科全書』にも紹介されている。あらかじめ型紙にそって刺繍された布地が、注文主の好みによって選択され、その後、裁断、縫製するディスポジションという方法で製作されていた。華やかな刺繍、ジャボやカフスに使われた高価なレース、おしゃれのポイントだった釦などが、ロココの粋な男たちを仕上げるのに不可欠であった。

素材・形状特徴コート、ウエストコート、ブリーチズの三つ揃い。コートとブリーチズはブルーの縞柄のアンカット・ベルベットにシークイン、ガラスの模造宝石、金・銀糸で刺繍。くるみ釦。ウエストコートは白い絹紋織。

収蔵品番号AC985 78-29-1AC

男性用スーツ(コート、ウエストコート、ブリーチズ)
© The Kyoto Costume Institute, photo by Taishi Hirokawa

男性用スーツ(コート、ウエストコート、ブリーチズ)18世紀前半 - イタリア

贅を尽くした18世紀の男性服。緑色の生地に浮き立つモワレは、グロ=ド=トゥールと呼ばれる横畝の生地を規則的に重ね合わせ、光沢機(カレンダー)で圧力をかけて艶出しすることで作りだされる。「製作されるものの中で文句なく美しい生地」(『百科全書』)と言われていた。 ブレードの縁飾りやフロッグには金糸がふんだんに使われている。金は、その希少性に加えて酸化等への耐食性が強く、永く輝き続けることから、身に着ける者の権力や財力を誇示する有効なツールとして古来より用いられてきた。金糸の使用も古く、紀元前に編まれた『旧約聖書』に既に登場している。その形状もさまざまで、本品では、金箔を糸状に裁断した平金糸と、黄色の絹糸に金の平箔をコイル状に巻き付けた撚金糸(金モール糸)が用いられている。 ブリーチズに使われている布地の文様は奇想(ビザール)様式。17世紀末から18世紀初頭にかけてイギリス、フランス、イタリアを中心に流行した織物模様で、草花模様と東洋趣味的な要素の組み合わせがアシンメトリックに配置される。

素材・形状特徴コートとウエストコートは緑の絹モワレのグロ=ド=トゥール(畝織りの一種)。金糸のブレードとタッセル付きフロッグの装飾。ブリーチズは黄色に白で草花模様を織り出した絹ブロケード。

収蔵品番号AC11336 2005-15-1AD, AC11337 2005-15-2

男性用コート、ウエストコート
© The Kyoto Costume Institute, photo by Toru Kogure

男性用コート、ウエストコート1790年頃 - フランス

精緻な刺繍によってウエストコートに描かれた古代ローマ風のアーチや列柱。18世紀後期は、新古典主義の影響もあり古代ローマやゴシックの遺構や廃墟が絵画のモチーフや庭園の設えなどに頻繁に取り上げられた。
1780年代末からフランス革命直前、コートを華々しく飾っていた刺繍も姿を潜め、縞柄が流行した。ウエストコートの丈は非常に短く、折り返し衿付きとなった。この時代以降19世紀前半まで、コートが簡素化する中で、男性ファッションの華やかさを引き受けるのはウエストコートである。

素材・形状特徴コートはブルー、グリーンなどの絹タフタとサテンの縞柄。折り返し付きの立ち衿、カッタウェイの前裾。ウエストコートは青の絹ファイユに草花柄と風景画の刺繍、ウイング・カラー。

収蔵品番号AC5146 85-28-2AC, AC5667 87-35-1